とうとう、当日の朝がきた。今回の大会は大分国際マラソンの9月。相当暑い。
それも、二人の地元で{その男}の家の前を、ランナーたちが 通り過ぎて行く。小さい頃から、人が少ない沿道をさがして 応援していた。
そのランナーは前日は眠れなかった。無理もない。5年振りの大会だ。前の日に炊いたごはんに、納豆をぶっかけ、生卵をのせる。あとは、インスタントみそ汁。ごはんを用意してくれた ばあちゃんはもういない。
いよいよスタート!
そのランナーはユニホームの胸に黒い紋章をつけた。
「いっしょに走るぞ」
{その男}はテレビの前に陣地取る。
ヨーイドン!
走り出すと以外に冷静になっており、中盤をキープして10キロ
を過ぎたころ。 「順調だばあちゃん」心でつぶやく。
20キロ過ぎたあたりから、沿道から「がんばれ」「いいぞ」と声援が多くなってきている。過去のファンだ。ランナーの境遇と物語を新聞でよんで応援に来ているのだろう。
30キロあたりから、様子がおかしい。呼吸が荒く、顔をしかめている。「ばあちゃん 助けてくれ!」心でつぶやく。
ときたま、ふらつく場面がテレビ中継で映し出していた。
{その男}はいてもたってもいられず、部屋着のまま家を飛び出した。ちょうどそのランナーが通るとこまでとにかく走った。
身なりなどどうでもいい。そのランナーのところまでただ行きたいだけである。
ランナーはもうフラフラ、視点が定まってない。上半身が右に傾き始めた。歩いたり、走り始めたり。
熱中症だ。沿道の人々がささやいている。
そのとき、{その男}が沿道をもすごい形相で全速力で走ってきた。Tシャツにブカブカのトレパン。薄毛はあせでピッチリ。
それでも、構わない。やっと追いつき、大声で叫んでいる。普段出さない大声を。
「もう いい」「やめろ!」
その場面がテレビ中継された。
ある人は画面を見て、馬鹿笑いして けなす。
ある人は「はっ」と気づき、くぎ付けになる。
ある人は涙がとまらない。
{その男}はテレビに映っているのもかかわらず、そのランナーに駆け寄り抱き寄せた。この時点でリタイアだ。
係員も駆けつけ沿道に運ばれた。
「ダメだったばい」
「そんなこつなか」「ばあちゃんもほめとっぞ」
「・・・・・・」
「ま、水ばのめ」
「・・・・・・」
そのランナーにとっては、{その男}はたよりになる兄貴。
回りからはばかにしたり、陰口をたたかれたり するけれど・・・
体が回復してきたのを見計らって二人その場を去って行った・・
おわり
あくまでもショートあらすじなので
あしからず・・・・